金沢の街は先週末の「金沢百万石まつり」の混雑から一転、静かな雰囲気に戻っています。
コロナ禍で延期が続き、3年ぶりに行われた百万石まつりはいろんな意味で注目されたイベントとなりました。
その1つが開催直前に発表された「利家公・お松役の撮影禁止およびネット掲載禁止」「写真コンテストの中止」です。
↑公式ホームページのお知らせより。撮影禁止は5月28日、写真コンテスト中止は5月31日に発表され、本当に直前の告知だったことが分かります。
その結果、当然インターネット上では疑問や批判の声が相次ぎ、マスコミにも取り上げられる結果となりました。
なぜこのような状況になったのか?今日は自分なりに追いながら、問題の背景にある「肖像権」について考えてみたいと思います。
(写真は前回の2019年のものです)
なぜ主催者側がこのような対応を取ったのか?
今回、主催者であるまつり実行委員会がこのような対応を行った経緯について、広田みよ金沢市議会議員が金沢市に聞き取りをされています。
(金沢市は実行委員会の構成団体の1つ)
大まかにまとめると次のようになります。
①実行委員会と関係者等で協議を行い、撮影やネット掲載を禁止するよう発表することとした。
→ただし、正式な合意文書などは無かった模様
②協議が遅れた結果、発表も直前となってしまった
→いつ、誰が言い出したのか、その内容については不明
③ホームページでは「無断でSNSにアップロードするなどの肖像権に関するトラブルが多発している」などと記載があったが、これまで特にトラブルは報告されていない
正直、すっきりしない内容ですが実行委員会や関係者のいずれかが、直前になって撮影や掲載の問題を持ち出し、もたついている間にこのようなトラブルが発生した模様です。
これまでの百万石まつりと比べると全く矛盾した対応ですし、数日前に告知を始めるというお粗末さ。当日の祭り会場でも「撮影禁止を告知する声やプラカードが邪魔だった」という苦情も出ていたようです。
そして何よりも「次回以降のまつりではどのような対応になるのか」という点が問題となるのは言うまでもありません。
これまでのまつりは何だったのか?
今回のまつりの対応がすっきりしない一番の原因は「これまでのまつりでは普通に撮影できたのになぜ今年だけ?」という矛盾にあると思います。
確かに。公式ホームページには歴代の写真コンテストの入賞作が掲載されていますが、メインキャストの芸能人を含めて一般出演者の方たちもしっかりと被写体になっています。
*応募は印刷のみとなっています。審査の時点で肖像権で問題になりそうなものは除外とすればいいですし、あえてホームページ上で拡散しなくてもいいのではと思いますが・・・。今回の中止理由と矛盾しています。
ここで、今回の撮影禁止や写真コンテスト中止の根拠として挙げられている「肖像権」について見てみましょう。
肖像権は他人から無断で写真や映像を撮られたり無断で公表されたり利用されたりしないように主張できる考えであり、人格権の一部としての権利の側面と、肖像を提供することで対価を得る財産権の側面をもつ。また、肖像を商業的に使用する権利をとくにパブリシティ権と呼ぶ。
公益社団法人日本写真家協会 | 写真著作権と肖像権 | 著作権法のあらまし - 「著作権研究「肖像権・撮る側の問題点(公益社団法人日本写真家協会会報)」」より
一般人か有名人かを問わず、人は誰でも断り無く他人から写真を撮られたり、過去の写真を勝手に他人の目に晒されるなどという精神的苦痛を受けることなく平穏な日々を送ることができるという考え方は、プライバシー権と同様に保護されるべき人格的利益と考えられている。
著名人や有名人は肖像そのものに商業的価値があり財産的価値を持っている
このように誰でも気軽に写真が撮影でき、一方では撮られる可能性が増えてきた現代社会において肖像権は重要な権利だと言えます。
特に集客力や宣伝力を持つ著名人・有名人にとっては、個人のプライバシーの問題はもちろん、商業的価値を保つためにもかなり気を遣う権利となります。
(仕事柄、著名人の取材やテレビロケにも携わりますが、撮影データの扱いには細心の注意を求められます)
したがって、本当は今年までのまつりにおいても「撮影やネットへの掲載については細心の注意が払われるべき(限りなくNGに近い)」ということだったのだろうと推測されます。
ただその一方で、この「まつり」という公の場所で開催される行事は肖像権問題を複雑にします。それはまつりが「撮影を黙示的に『承諾した』と認められる」状況を作り出しやすいため、場合によっては肖像権侵害を訴えにくくなるからです。
今回の百万石まつりのように誰でも出入りができ、撮影が行われることが推測できる場合、写真に写ってしまう可能性があることは簡単に想像できます。
もちろん特定の個人だけを狙って撮影することは、個別に許可を得なければいけませんが、風景や場面の一部として写ってしまうことはありえます。
難しいのはこれまでメインキャストとして招待された芸能人または事務所と主催者の間にどのような取り決めがあったかですが、おそらく暗黙の了解で撮影やネットへのアップは黙認されていたのでしょう。
1984年(第33回)の祭りから俳優が起用されるようになり、祭りの性質やイメージについて事務所側も理解していると推測できます。
さらに裏を返せば、肖像権は「撮影や公表されない権利」であると同時に、「撮影や公表をコントロールできる権利」でもあります。
黙示的にでも撮影や公表を容認することで、祭りを通じてPRしたいという目的を芸能人や事務所は持っている可能性はあります。
特に金沢でも最大の祭りということになれば、金沢や石川県内でのアピール力はそれなりのものです。
今回の撮影禁止の意図については、実行委員会と関係者の間にどんな協議があったのかが明らかにならなければ、現時点では分かりません。
【2022.6.14追記】栗山氏サイドより「撮影禁止」の依頼があったことが明らかになっています。
ただ、次回以降のまつりでも肖像権を根拠に撮影やネット掲載を判断していくとすれば、撮影はほぼできないという状況が続くのではないでしょうか。
できればそうならないように実行委員会の方は出演者選定と関係者との調整を行っていただきたいと思います。
肖像権問題についてはこちらが参考になります↓
これからの肖像権問題について
急速にSNSが発達し、誰でも撮影と発信が出来る中で肖像権の考え方もバージョンアップしていかなければいけないのではないでしょうか。
例えば芸能人やモデルなど、メディアに顔を出して対価を得るような職業についても、肖像権の扱いはよりシビアになっていると感じます。
誰でも発信ができ、一気にネット上に画像や動画が広まっていく中で、一昔前の一部の雑誌やテレビ番組でないと芸能人の姿が見られないという状況ではなくなりました。
規制しようとも一気に画像や動画が広まっていく中で、新しいメディア戦略を練っていくのは著名人の宿命なのかもしれません。
メディアで名前を売り、対価を得ていくというのはメリットもある反面、誹謗中傷やプライベートの制限などデメリットも伴います。ネット社会の中でその危険性はいっそう高まりました。
その危険性を考えるならば、メディアに露出すること=肖像権の一部制限を正当に対価として評価することも方法の1つだと個人的には考えています。
※著名人のメディア出演に支払う対価の中には、肖像権の中のパブリシティ権(財産権)の一部を買い取っているという考え方もできるのでは
今回の金沢百万石まつりをめぐる騒動について簡単に見てきました。
実行委員会と関係者とのやり取り、いつ協議が行われて何が決まったのか?次回以降はどうなるか?など、判断できる材料が少ないため何らかの形で真相が明らかになることを期待しています。
実行委員会の告知の遅れや祭り当日の不十分な対応など、何ともしょうもない騒動ではありましたが、多少なりとも肖像権について考える機会になったのではないかと思います。